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2025.11.15

銀座駅徒歩3分・東銀座駅徒歩10秒の歯医者・審美歯科「東京銀座A CLINIC デンタル」です。
歯科治療を受ける患者さんの中には、治療に対する不安や恐怖心から、治療の開始をためらったり、途中で中断してしまったりする方が少なくありません。このような状況は、患者さんの口腔健康の維持を困難にするだけでなく、歯科医療提供者にとっても、質の高い治療を安定して提供する上での大きな課題となっています。
こうした課題を解決する有効な選択肢の一つが、静脈内鎮静法です。この方法は、患者さんの精神的な負担を軽減し、リラックスした状態で治療を受けていただくことを可能にします。本記事では、静脈内鎮静法の基本的な定義から、歯科医療における具体的な利点、潜在的なリスクとその管理方法、実施に必要なプロセス、さらにはクリニックでの導入に向けた要件までを網羅的に解説します。静脈内鎮静法に関する正確かつ実践的な知識を深め、日々の診療に役立てていただければ幸いです。
歯科治療を受ける患者さんの中には、治療に対する強い不安や恐怖心を抱えている方が少なくありません。こうした精神的な負担は、治療の円滑な進行を妨げるだけでなく、患者さんが歯科医院から遠ざかる原因ともなり得ます。静脈内鎮静法は、このような患者さんの不安を和らげ、リラックスした状態で安心して治療を受けていただくことを目的とした医療技術です。
この方法は、単に痛みを抑える麻酔とは異なり、精神的な安静状態を導くことで、患者さんが歯科治療に対して抱くネガティブな感情を軽減する役割を担います。歯科医療において静脈内鎮静法がどのように機能し、どのような効果をもたらすのかを理解することは、患者さんの治療体験を向上させる上で非常に重要です。
静脈内鎮静法は、鎮静薬や麻酔薬を点滴によって静脈内に注入し、患者さんの意識を完全に消失させることなく、不安や恐怖心を取り除き、精神的に落ち着いた状態を導く方法です。全身麻酔とは異なり、患者さんは意識がある状態で、呼びかけには応じることができますが、ウトウトとした非常にリラックスした状態になります。この状態は「意識下鎮静」と呼ばれ、自発呼吸も維持されるため、体への負担が少ないのが特徴です。
この治療法の主な目的は、患者さんが歯科治療中に感じるストレスを大幅に軽減することにあります。特に、治療中の痛みや不快な感覚に対する記憶を曖昧にする「健忘効果」も期待できます。これにより、たとえ長時間の治療が必要な場合でも、患者さんは治療が終わった後に「あっという間だった」「ほとんど覚えていない」と感じることが多く、歯科治療に対する嫌な思い出が残りにくくなります。
結果として、静脈内鎮静法は、歯科治療への抵抗感を減らし、患者さんが継続的に歯科医院を受診しやすい環境を作る上で、重要な役割を果たします。
歯科治療で用いられる麻酔・鎮静法には、静脈内鎮静法の他にも全身麻酔や笑気吸入鎮静法があり、それぞれ目的や効果が異なります。全身麻酔は、意識を完全に消失させ、人工呼吸管理を伴う麻酔法です。患者さんは術中の記憶が全くなく、痛みも感じませんが、入院が必要となる場合が多く、体への負担も大きいため、主に全身疾患を持つ患者さんの大規模な手術や、一般的な麻酔では対応できない非常に高度なケースに限定して用いられます。
一方、笑気吸入鎮静法は、亜酸化窒素(笑気ガス)を吸入することで軽い鎮静効果を得る方法です。患者さんは意識がはっきりしており、全身麻酔や静脈内鎮静法と比較して鎮静の深度は最も浅いのが特徴です。主に軽度の不安を抱える患者さんや、短時間の処置に適しており、吸入を中止すれば速やかに覚醒するため、回復が早いというメリットがあります。
静脈内鎮静法は、全身麻酔と笑気吸入鎮静法の中間に位置すると言えます。意識はありますが、ウトウトとした深いリラックス状態を得られ、治療中の記憶が残りにくい「意識下鎮静」を特徴とします。全身麻酔のように人工呼吸管理は不要で、多くの場合日帰りで治療が可能です。笑気吸入鎮静法よりも深い鎮静効果が得られるため、強い歯科恐怖症の患者さんや、インプラント手術、親知らずの抜歯など、長時間にわたる侵襲性の高い処置に適しています。
これらの違いを理解することで、患者さんの状態や治療内容に応じて最適な麻酔・鎮静法を選択することが可能になります。静脈内鎮静法は、より幅広い歯科治療において、患者さんの心身の負担を軽減し、安全で快適な治療環境を提供するための有効な選択肢として活用されています。
静脈内鎮静法は、歯科治療を受ける患者さんの心身の負担を軽減するだけでなく、治療そのものの安全性と質を高める上で多岐にわたる利点をもたらします。これは単に治療時の不安を和らげるだけではなく、患者さん、術者、そして医療安全という三つの側面から、より質の高い歯科医療の実現に大きく貢献する選択肢となります。
静脈内鎮静法は、歯科治療に対する強い不安や恐怖心を抱える患者さんにとって、非常に大きな恩恵をもたらします。点滴によって鎮静薬を投与することで、患者さんは意識がある状態でリラックスした状態となり、歯科治療特有の不快感や恐怖感が大幅に軽減されます。これにより、これまで治療を避けてきた方や、治療中にパニックを起こしやすかった方も、落ち着いて治療を受けることが可能になります。
さらに、静脈内鎮静法の大きな特徴の一つとして「健忘効果(備忘効果)」が挙げられます。これは、治療中の出来事、例えばドリルの音や器具の感触、会話の内容などが記憶に残りにくくなる効果のことです。この作用により、たとえ長時間の治療であっても、患者さんにとっては短く感じられたり、治療後の不快な記憶がほとんど残らないため、歯科治療に対するネガティブな印象を大きく軽減できます。結果として、歯科医院への苦手意識が薄れ、定期的なメンテナンスや必要な治療にも前向きに取り組めるようになる効果が期待できます。
静脈内鎮静法は、患者さんだけでなく、治療を行う歯科医師やアシスタントなどの医療チームにも多大な恩恵をもたらします。患者さんがリラックスして落ち着いた状態にあるため、治療中の突発的な体動が減少し、術者はより精密で集中力を要する治療に専念できるようになります。
特に、嘔吐反射が非常に強い患者さんの治療や、インプラント埋入、親知らずの抜歯といった長時間を要する外科処置において、患者さんの動きが制限されることは、偶発的な事故のリスクを大幅に低減し、治療の安全性を高めることに直結します。これにより、術者は正確な手技を滞りなく進めることができ、結果として治療時間の短縮や、治療の質の向上に大きく貢献すると言えるでしょう。安全で円滑な治療環境は、患者さんにとっても術者にとっても最良の成果を生み出す基盤となります。
歯科治療に対する過度なストレスや恐怖は、患者さんの生理的な反応として、血圧の上昇や脈拍の増加(頻脈)を引き起こすことがあります。特に高血圧や心疾患などの基礎疾患を持つ患者さんにとって、このような急激なバイタルサインの変動は、狭心症の発作や不整脈などの偶発症を招くリスクを高める可能性があります。静脈内鎮静法は、精神的な安静状態を保つことで、これらのストレス反応を抑制し、循環動態を安定させる効果が期待できます。
鎮静薬によってリラックスした状態が保たれることで、治療中の血圧や脈拍の急な変動が抑えられ、患者さんの全身状態をより安定した状態で維持できます。これは、基礎疾患を持つ患者さんにとって、治療中の偶発症のリスクを大幅に低減するための非常に重要な要素となります。術中に安定したバイタルサインを維持できることは、患者さんの安全を確保し、安心して治療を進める上で不可欠な利点と言えるでしょう。
どのような医療行為にも、その利点と引き換えに、潜在的な課題やリスクは存在します。静脈内鎮静法も例外ではなく、安全かつ効果的に実施するためには、これらの負の側面を正確に理解し、適切な管理体制を確立することが不可欠です。本セクションでは、静脈内鎮静法に伴う具体的な課題やリスクについて詳しく解説し、それらをいかに最小限に抑えるかについてもご紹介します。
静脈内鎮静法で使用される薬剤は、患者さまをリラックスさせ、不安を軽減する効果がある一方で、特定の副作用や偶発症を引き起こす可能性もゼロではありません。代表的な副作用としては、呼吸抑制(呼吸が浅くなったり遅くなったりすること)、血圧低下、不整脈などが挙げられます。これらは、使用する薬剤の種類や量、患者さまの全身状態によって発生頻度や重篤度が異なりますが、常に注意深い観察が必要です。
また、ごく稀にアレルギー反応が生じたり、点滴を挿入した部位に静脈炎(血管の炎症)が起こったりすることもあります。これらは事前の問診やアレルギー歴の確認、適切な処置によって未然に防ぐ、あるいは早期に対応することが可能です。治療後には、ふらつきや眠気が残ることがありますが、これは薬剤の効果が完全に切れるまでの一般的な反応であり、一時的なものです。
静脈内鎮静法は一般的な麻酔と比べて薬の投与量が少なく、副作用のリスクは低いとされていますが、これらの可能性を認識し、適切な準備と対応を行うことが、患者さまの安全確保に繋がります。
静脈内鎮静法のリスクを最小限に抑え、安全に治療を進めるためには、徹底した管理体制が不可欠です。その中でも特に重要なのが、術中の生体情報モニターによる継続的な監視です。パルスオキシメーターで血液中の酸素濃度、血圧計で血圧、心電図で心臓の活動をリアルタイムでモニタリングすることで、患者さまのわずかな状態変化も早期に察知し、迅速に対応することができます。
モニターによって異常の兆候が見られた場合には、直ちに薬剤の量を調整したり、酸素投与を行ったりと、適切な処置を施します。術者だけでなく、歯科衛生士や看護師といった他の医療従事者も患者さまの状態を常に観察し、異常時には速やかに連携できる体制を整えることが重要です。さらに、万が一の緊急事態に備え、気道確保器具、酸素ボンベ、蘇生薬などの救急蘇生セットを常に準備し、使用方法を熟知しておく必要があります。これらのハード・ソフト両面からの対策が、静脈内鎮静法における安全性を高める上で欠かせません。
静脈内鎮静法を安全に、そして安心して受けていただくためには、患者さまへの適切なインフォームド・コンセント(説明と同意)が極めて重要です。歯科医師は、静脈内鎮静法の目的、どのような効果が期待できるのかだけでなく、起こりうる副作用や偶発症のリスクについても、専門用語を避け、分かりやすい言葉で丁寧に説明する責務があります。
特に重要なのは、治療後の注意事項です。例えば、薬剤の効果が残っている間は、ふらつきや眠気があるため、車の運転や危険な機械の操作、高所での作業などは絶対に避けるべきであることを明確に伝えます。また、責任を伴う仕事や重要な契約なども控えるようアドバイスし、飲酒も避けていただく必要があります。これらの説明を患者さまご自身だけでなく、付き添いのご家族などにも共有し、すべての情報を理解し納得していただいた上で、同意書にサインをいただくことが、患者さまとの信頼関係を構築し、医療安全を確保する上で不可欠となります。
静脈内鎮静法を安全かつ効果的に実施するためには、どの患者さんに適用すべきか、そしてどの患者さんには適用すべきでないかを正確に判断することが不可欠です。ここでは、医学的な根拠に基づいて、静脈内鎮静法が適応となるケースと、適用を避けるべき禁忌事項について詳しく解説します。
静脈内鎮静法は、特に歯科治療に対して強い不安や恐怖心を抱く患者さん、いわゆる歯科恐怖症の方に有効な選択肢となります。過去の歯科治療で辛い経験をされた方は、その記憶から再び治療を受けることに抵抗を感じがちですが、静脈内鎮静法は治療中の不快な記憶を和らげる効果があるため、安心して治療に臨んでいただけます。
また、嘔吐反射が非常に強く、通常の歯科治療中にえずいてしまうことで治療の進行が困難な患者さんにも静脈内鎮静法は有効です。リラックスした状態になることで反射が抑えられ、スムーズに治療を進めることが可能になります。さらに、インプラント手術や親知らずの複数本抜歯といった長時間にわたる外科的処置を受ける患者さんにとっても、精神的・身体的負担を軽減し、快適に治療を終えることができるというメリットがあります。
静脈内鎮静法の使用を避けるべき、または極めて慎重な判断が必要な症例も存在します。まず、使用する鎮静薬に対してアレルギーがある患者さんは絶対的禁忌です。アレルギー反応は重篤な症状を引き起こす可能性があるため、事前の問診でしっかりと確認することが重要です。
また、重篤な呼吸器疾患(喘息、慢性閉塞性肺疾患など)や、コントロール不良の心臓病、肝機能障害、腎機能障害などの全身疾患を持つ患者さんには慎重な投与が求められます。これらの疾患を持つ患者さんでは、鎮静薬が呼吸や循環に与える影響が大きくなる可能性があります。妊娠中の女性、特定の緑内障患者、開口障害が著しい患者さんも、静脈内鎮静法の適用は避けるべき、あるいは専門医との連携のもとで慎重に判断すべきケースです。
HIV感染症やてんかんの既往がある患者さんについても、使用する薬剤の種類や全身状態を考慮し、細心の注意を払って適応を判断する必要があります。静脈内鎮静法は安全性の高い方法ですが、患者さんの全身状態を十分に評価し、リスクを最小限に抑えるための適切な症例選択が不可欠です。
静脈内鎮静法は、患者さんの不安を軽減し、より快適に歯科治療を受けていただくための有効な方法ですが、その安全性を確保するためには、確立された具体的な手順と厳格な管理が不可欠です。このセクションでは、治療開始前の準備から治療中、そして治療後の回復段階に至るまで、静脈内鎮静法を安全に実施するための標準的なプロセスを、時系列に沿って詳しくご説明いたします。それぞれの段階でどのような点に注意し、どのような確認を行うべきかをご理解いただくことで、実際の臨床における円滑で安全な運用に役立てていただければと思います。
静脈内鎮静法を安全に実施するための最初の、そして最も重要なステップは、患者さんの術前評価を徹底することです。まず、詳細な問診を通じて、全身疾患の有無、現在服用されている薬剤、過去のアレルギー歴などを正確に把握します。例えば、心臓病や高血圧、糖尿病などの基礎疾患がある場合、鎮静薬の種類や投与量に影響が出る可能性があるため、これらの情報は特に重要です。また、過去に何らかの薬剤でアレルギー反応を起こした経験があるかどうかも、使用する鎮静薬の選定に大きく関わります。
次に、歯科医師による診察では、口腔内の状態だけでなく、患者さんのバイタルサイン(血圧、脈拍、体温など)を測定し、全身状態を確認します。特に、血圧が高い、不整脈があるといった場合には、鎮静法の適応を慎重に判断する必要があります。さらに、呼吸器系の異常や気道の確保に影響を及ぼす可能性のある所見がないかも確認します。
必要に応じて、血液検査などの追加検査を実施することもあります。これらの検査結果を総合的に評価することで、患者さんが静脈内鎮静法の適応となるかどうかを判断し、もし適応となった場合には、最も安全で適切な鎮静計画を立案します。この徹底した術前評価は、予期せぬ偶発症のリスクを最小限に抑え、患者さんの安全を確保するための基盤となります。
治療当日は、まず患者さんの来院時に最終的な体調確認を行います。術前の問診時と比べて体調の変化がないか、発熱などの症状がないかを再度確認することが重要です。また、静脈内鎮静法を受ける際には、処置開始5時間前からの飲食禁止というルールが設けられているため、これが確実に守られているかの最終確認も行います。この絶飲食の指示は、万が一の嘔吐による誤嚥を防ぐために不可欠な措置です。
体調確認が完了したら、次に生体情報モニターを装着します。具体的には、パルスオキシメーターで血液中の酸素飽和度を、血圧計で血圧を、そして心電図で心臓の動きを継続的に監視します。これらのモニターにより、患者さんの全身状態をリアルタイムで把握し、異常の兆候を早期に察知できるようにします。その後、点滴から鎮静薬を静脈内にゆっくりと注入し、患者さんがリラックスしたウトウトとした状態になったら歯科治療を開始します。
治療中は、術者が歯科治療に集中する一方で、別の医療従事者(多くの場合、歯科麻酔専門医や訓練を受けた歯科医師・歯科衛生士)が、モニターを常に監視しながら患者さんの状態を継続的に観察します。呼吸の状態、意識レベル、顔色などを注意深く確認し、何か異常があれば直ちに対応できる体制を整えておくことが重要です。治療が終了したら、鎮静薬の投与を中止し、患者さんの覚醒を促します。
鎮静薬の投与中止後、患者さんが安全に覚醒し始めるまでの間も、引き続き生体情報モニターによる監視は継続します。ゆっくりと意識が戻り、呼びかけに対して適切な反応ができるようになるまで、患者さんの状態を注意深く見守ります。この一連の流れを正確に実施することで、静脈内鎮静法下での歯科治療を安全かつ円滑に進めることが可能になります。
歯科治療が無事に終了し、鎮静薬の投与が停止された後も、患者さんの安全を確保するための重要な段階が続きます。鎮静薬の効果が完全に薄れるまで、患者さんにはリカバリールームなどで安静にしていただきます。この間も、血圧や脈拍、酸素飽和度といったバイタルサインの監視を継続し、鎮静薬の影響による体調の変化がないかを慎重に確認します。
患者さんを安全に帰宅させるためには、明確な帰宅基準を設けることが不可欠です。一般的には、意識が完全に明瞭であり、時間や場所を正しく認識できること、ふらつきがなく、介助なしで安定して歩行できること、そして血圧や脈拍などのバイタルサインが治療前と同程度に安定していることなどが基準となります。これらの基準をすべて満たしていることを確認した上で、ようやく帰宅の許可を出すことができます。
帰宅時には、患者さんご本人だけでなく、お迎えに来られたご家族や付き添いの方にも、術後の注意事項を改めて詳しく説明します。特に重要なのは、当日は車の運転や自転車の運転、危険を伴う機械の操作は避けるよう強く指導することです。また、重要な契約書の記入や判断を要する仕事、激しい運動、アルコールの摂取も控えるように伝えます。鎮静薬の影響が完全に抜けるまでには個人差があり、数時間から半日程度は注意が必要であることをご理解いただくことで、帰宅後の思わぬ事故やトラブルを防ぐことができます。
静脈内鎮静法は、患者さんの歯科治療への不安を軽減し、より快適な治療を提供する上で非常に有効な手段です。しかし、この方法を安全かつ効果的に診療に取り入れるためには、いくつかの実践的な準備と検討が必要になります。このセクションでは、ご自身のクリニックで静脈内鎮静法を導入する際に考慮すべき、設備、人材、法規、そして費用といった多角的な側面から、具体的な準備事項を詳しく解説していきます。
これらの要件を事前に確認し、適切に準備を進めることは、静脈内鎮静法を成功させるための基盤となります。単に手技を習得するだけでなく、医療提供体制全体を整えることで、患者さんにとってもクリニックにとっても質の高い医療提供へとつながります。
静脈内鎮静法を安全に実施するためには、適切な設備と薬剤、そしてそれを運用する十分な知識と技術を持った人員体制の整備が不可欠です。まず設備面では、患者さんの状態をリアルタイムで把握するための生体情報モニターが必須となります。具体的には、パルスオキシメーター(血中酸素飽和度と脈拍の測定)、自動血圧計(定期的または連続的な血圧測定)、そして心電図モニター(心臓の電気的活動の監視)が必要です。これらのモニターは、鎮静中の患者さんのわずかな変化も見逃さないために、非常に重要な役割を果たします。
また、鎮静薬を正確かつ安定的に投与するために、シリンジポンプや輸液ポンプといった精密な投与装置も必要です。これにより、薬剤の過少投与や過剰投与を防ぎ、常に最適な鎮静深度を維持することが可能になります。さらに、万が一の事態に備えて、救急蘇生セットの準備も絶対に欠かせません。これには、気道確保のための器具(例えば、喉頭鏡や気管チューブ)、酸素供給装置、そして心停止やアレルギー反応などの緊急時に使用する蘇生薬(アドレナリン、抗ヒスタミン薬など)が含まれます。
人的体制としては、静脈内鎮静法に関する十分な知識と技術、そして緊急時対応のトレーニングを受けた術者(歯科医師)と、その補助にあたる医療従事者(歯科衛生士や看護師など)の配置が不可欠です。鎮静中は、術者が治療に集中できるよう、補助者が常に患者さんの状態を監視し、バイタルサインの記録や医師への報告を行う体制を構築することが、安全管理上極めて重要になります。
静脈内鎮静法を歯科診療に取り入れるにあたっては、その安全性と倫理性を確保するため、関連するガイドラインを遵守し、法的な側面にも十分に留意する必要があります。日本では、日本歯科麻酔学会などが「歯科診療における静脈内鎮静法ガイドライン」のような形で、安全な実施のための基準や推奨事項を公表しています。これらのガイドラインに準拠した安全管理体制を構築することは、患者さんの安全を守る上で最も基本的な要件となります。ガイドラインでは、術前の評価、術中のモニタリング、術後の管理、緊急時の対応など、静脈内鎮静法の各段階における具体的な注意点が示されています。
また、歯科医師が自身のクリニックで鎮静を行う際には、その行為に伴う法的責任も発生します。偶発症が発生した場合の報告義務や、患者さんへの説明責任(インフォームド・コンセント)は特に重要です。患者さんに対しては、静脈内鎮静法の目的、期待される効果、使用する薬剤、起こりうる副作用や偶発症のリスク、そして代替治療の有無について、専門用語を避け、分かりやすく丁寧に説明し、十分に理解・納得してもらった上で書面による同意を得ることが不可欠です。このプロセスは、患者さんとの信頼関係を構築するだけでなく、医療行為の透明性を高め、法的トラブルを未然に防ぐ上でも極めて重要になります。
これらのガイドラインや法的留意点を踏まえることで、コンプライアンスを遵守しつつ、質の高い静脈内鎮静法を安全に提供できる体制を確立することができます。
静脈内鎮静法を患者さんに提供する上で、費用に関する透明性は非常に重要な要素です。現状、日本において歯科治療で用いられる静脈内鎮静法のほとんどのケースは、公的医療保険の適用外となり、自費診療(自由診療)として扱われます。そのため、クリニック側で独自の料金設定を行う必要があり、この費用体系を患者さんに明確に提示することが求められます。
保険適用外であるため、患者さんは治療費に加えて鎮静費用も全額自己負担することになります。したがって、治療を開始する前に、静脈内鎮静法にかかる具体的な費用、薬剤費、そして麻酔管理料などを含む総額を明確に提示し、患者さんの納得を得ることが不可欠です。口頭での説明だけでなく、見積書などを提示し、文書で確認してもらうことで、後に費用に関する誤解やトラブルが生じるのを防ぐことができます。
費用についての十分な説明と同意は、患者さんの治療への安心感を高めるだけでなく、クリニックと患者さんとの間の良好な関係を維持するためにも重要なステップとなります。患者さんが安心して治療を受けられるよう、費用についても丁寧な説明を心がけることが大切です。
静脈内鎮静法は、歯科治療への不安や恐怖心を抱える患者さんにとって、治療のハードルを下げるだけでなく、快適で質の高い治療体験を提供する重要な選択肢です。この方法は、患者さんの精神的な負担を軽減し、治療中の不快な記憶を残しにくくすることで、QOL(生活の質)の向上にも貢献します。
同時に、術者にとっては、患者さんがリラックスした状態で治療に臨めるため、より安全で精密な治療を円滑に進めることが可能になります。適切な知識と技術、そして厳格な安全管理体制のもとで静脈内鎮静法を実施することで、患者満足度を高めながら、医療の質を向上させる強力なツールとなるでしょう。
国立東北大学卒業後、都内の医療法人と石川歯科(浜松 ぺリオ・インプラントセンター)に勤務。
2018年大森沢田通り歯科・予防クリニックを開業、2025年 東京銀座A CLINIC デンタル 理事長に就任し現在に至る。
【所属】
・5-D Japan 会員・日本臨床歯周病学会 会員・OJ(Osseointegration study club of Japan) 会員・静岡県口腔インプラント研究会 会員・日本臨床補綴学会 会員 会員・日本デジタル歯科学会 会員・SPIS(Shizuoka Perio implant Study) 会員・TISS(Tohoku implant study society) 主催
【略歴】
・2010年 国立東北大学 卒業・2010年 都内医療法人 勤務
・2013年 石川歯科(浜松 ぺリオ・インプラントセンター)勤務・2018年 大森沢田通り歯科・予防クリニック 開業・2025年 東京銀座A CLINIC デンタル 理事長 就任
銀座駅徒歩3分・東銀座駅徒歩10秒の矯正歯科・審美歯科『東京銀座A CLINIC デンタル』住所:東京都中央区銀座5丁目13-19 デュープレックス銀座タワー5/13 12階TEL:03-6264-3086